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続きです。短め。
大学院の修士課程を修了した後、私は国立の研究所で研究員をしている。
手袋、マスク、帽子、白衣を着用して伊達眼鏡かけて仕事が出来る最高の職場だ。
家族の触れた物ですら触りたくない私は大学入学と共に一人暮らしを始め、現在は女にしてはなかなかの高給取りの為、お蔭様で好きなように暮らせている。
そのマンションに美咲さんを入れたのはその日が初めてだった。出会ってから5年が過ぎていた。
「急にごめんなさい」
いつもふんわりと笑う美咲さんが泣きはらした顔で痛々しく微笑む。
「大丈夫、明日休みだし……」
中にどうぞと促すと、美咲さんはハッとした顔をして、緩く巻いた長い髪を一つにまとめて結い上げ、バッグから手袋を出して嵌めた。
「美咲さん……」
その時初めて私は気づいた。
私と会う時、いつも美咲さんは髪をまとめたり、帽子を被ったりして長い髪が不意に私に触れるような事がないように気をつけてくれていた事を。そしていつもレースだったり、ニットだったり、シルクだったりとさまざまな可愛いくて綺麗でおしゃれな手袋をしていた。それが全部私の為だったという事に。
「美咲さん、それって……」
私の視線に気づいた美咲さんが、
「だって、なっちゃんに嫌な思いをさせたくないから……」
確かに、アクシデントでどうしても触れてしまう事がある。それを防ぐ為に美咲さんは予防してくれていたんだ。
そしてその時私は改めて自分の気持ちと向き合った。
多分、一目惚れだった。
でも、『友達として』という美咲さんの願いにこだわってずっと自分の気持ちを否定してきた。
美咲さんが二人目の子供を産んだ時、三人目の子供を産みたくないと泣いた時、私は本当は美咲さんを抱きしめたかった。
私と会う時、極端に肌の露出が少ない服であることも、必ず長袖の上着を羽織っている事も全ては私の為だったんだ。
それなのに、私は手袋と袖口の隙間から垣間見える華奢な腕に、薔薇色に輝く無垢な頬に、触れたいと、何度も思った。
誰にも触れることが出来ない私が触れたいと思う、その気持ちをずっと否定してきた。
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