【暫定】 続・夢見るカラス ２ 2012/12/14 (Fri)

牛歩です。

ですが書かないよりは書いた方がいいという事で。

ほんの少しだけ更新。

【暫定】　続・夢見るカラス　２


　こうして海野美波は私と一緒に暮らすことになった。
「親御さんにはちゃんと話して来たの？？　本当に一緒に住むつもりなの？？」
　私は当たり前の大人のように下らない質問ばかりした。
　本当に聞きたい事はそんな事じゃないとわかっていたのに。
「先生……」
　彼女はもう一秒たりとも目を離したくないとでも言うかのようにひたすら私を見つめた。
　ああ、それは。あの懐かしくも狂おしい瞳だ。私を射るように見つめていたたまれなくさせたあの、眼差し。
　たったそれだけで私の背筋に震えが走った。
　その震えは明らかに快感だった。私の身体は喜びに打ち震えた。
　私も彼女の瞳に魅入られたように目線を離せず、濡れたような瞳に喉が干からびるような感覚を覚える。そして自分はこんなにも彼女に飢えて乾いていたのだとまざまざと思い知らされた。
「あの、先生、触っていいですか？？」
　躊躇いがちに発せられた小さな声に私は言葉なく頷いた。
　華奢な指が、静かにゆっくりと私の手の甲に触れる。
　そのつるりとした滑らかな感触は、柔らかにけれども確かめるように幾度か私の手の甲を彷徨い、それからきゅっと握り締めてきた。
　――ああ！！
　私は不意に叫び出しそうになった自分を堪えるように唇を噛んだ。
　温かい。
　当たり前だけれど、人間の手は温かいのだ。
　もう何年も他者に触れていなかった私は海野美波の手の温かさに、その血潮の通った熱さに、驚かずにはいられなかった。
　そして再び目の奥が熱くなり、痛んだ。
　また泣いてしまう。
　泣いてばかりいてはいけない。
　未だ何も始まっていないのだ、私達は。
　私はゆっくりと目を閉じてから幾度か瞬き、涙を堪えた。
　そしてこの重ねられた手から私の全ての感情が彼女に伝わってしまうのではないかと、恐れおののいた。
　私のこんな欲望を美波は知らない。
　意思の強い澄んだ美しい瞳と凛とした雰囲気を纏う太陽のような美波。
　太陽に恋した愚かな人間は目が眩んでもう何一つ見えない。
　常に太陽の方を向く花々のように、私の目は強く美波に引き寄せられる。その抗いがたい吸引力で、私を惹きつけて放さない。
　考え事をしながらひたすらに美波を見つめているといつしか美波の顔が吐息が触れそうなほど近くにあり、私ははっと息を飲んだ。