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というか、書き終わらなかったので(汗)
兄貴の親友だった川村先輩が女性同伴で現れた時、どこか見覚えのあるその姿に、しかしボクは川村先輩の奥さんだろうと一瞥しただけだった。
その時ボクは気が遠くなるような絶望と悲しみの淵で、押し寄せてくる不安と焦燥と怒りに、ただ黙って堪えるしかすべを持たなかったのだ。
どうして。
そう、どうして。
その言葉に尽きる。
あまりにも理不尽にあまりにも突然に肉親を失ったボクは誰かに問いたかった。
どうして。
どうして、兄貴じゃなきゃいけなかったのかと。
だって、長い闘病生活も終わろうとしていて、その先に幸せが待っていたはずだったのに。
どうして、どうしてあまりにもあっけなくつれていかれてしまったんだろう、と。
前日まではとても元気だった。
なのに、肺炎にかかって、あまりにもあっけなく逝ってしまった。
なんとも強引に連れて行かれてしまったのだ。
どうして。
その理不尽さに。
身を引き裂く怒りに、息も絶え絶えになって、眩暈がして、ただただ立っているだけで精一杯だった。
「ボク??」
がやがやとざわめく周囲の音がすうっと遠のいて、自分の目の前に人が立っているのに気がついた。
「……なんて言っていいか、言葉もないけれど、本当に残念で……」
ぽつり、ぽつりとしたお悔やみの言葉に顔を上げると、目を真っ赤にして泣きはらした女性がいた。
それは川村先輩の……奥さん……、じゃない。
「かわむら??」
女性は声もなく頷いてハンカチで口元を押さえて嗚咽した。
綺麗な涙が目じりから溢れて頬を伝う。
女性は川村先輩の妹で川村明子、ボクの同級生だ。
一度も同じクラスになったことはないけれど小中と同じ学校に通っていた。
ボク達の共通点は兄同士が親友だって事。
それぐらいしか接点は無かったけれど、彼女は一時期兄貴と付き合っていたこともあったはずだ。
今は結婚して川村姓じゃなくなっている。
母親情報だと確か子供が二人いて二人とも男の子だとか。
高校・大学とすっかり道が分かれても折に触れて母親や兄貴から彼女の情報を伝えられていた。
それでもこの10年、一度も会うことはなかった。
お互い年をとっていた。
昔の面影は残っていたけれど、若さや瑞々しさは確実に失われていた。
なのにどうしてなんだろう。
彼女はひどく綺麗だった。
昔のような輝くような美しさはなくなっていたけれど、優しい雰囲気はそのままで、見惚れてしまうくらい綺麗でやわらかだった。
そして、ボクは気づいた。
彼女が特別に綺麗なのではなくて、ボクにとってだけ綺麗なのだと。
ボクの気持ちは結局昔のままずっと彼女に向かっていたのだと。